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2001年、米国民の注目を集めた著作権訴訟がありました。多くの国民にとって特別な思い入れのある古典「風とともに去りぬ」を、奴隷制度を美化するものとして黒人の目から風刺したパロディ小説が発売されたのです。原作者ミッチェルの財団(から信託を受けた信託銀行)は、これを著作権侵害であるとして発売の差止めなどを求める訴訟を提起し、原審はこれを認めたのですが、控訴裁判所は原審の判断を覆し、晴れてこのパロディが書店に並ぶこととなりました。日本でも、「チーズ」と「バター」の対決があったことは記憶に新しいところで、パロディについて考える機会の多い1年でした。
パロディと著作権の関係については比較法的にみていくつかのアプローチがあるそうですが、米国では、フェアユースの文脈で著名な判決があります。パロディは法制度や歴史的背景の違いが顕著に表れる論点であり、日本のパロディに関する裁判例と比較すると、非常に興味深い法制度及び精神文化の対比をすることができます。
パロディは、本質的に他人の作品の翻案でありながら、原作品の権利者から許諾を得ないで作成されるものであることにその問題の源があります。原作者から同意を得ていたのではパロディが風刺として意味のあるものにはなりませんし、他方、パロディを広く認めると、パロディと称して単に原作の知名度などにただ乗りする者も出てきて、著作権制度が骨抜きになるおそれもあります。日本の著作権法との関係では、複製権、翻案権などの著作権及び同一性保持権など著作者人格権の侵害、そして引用などの権利制限規定の適用が問題になりますが、広い観点からは、著作権制度と表現の自由という憲法上の権利との衝突点と捉えることもできます。
米国では、著作者人格権が極めて限られたジャンルにおいてしか認められていないため、著作物のパロディに関して問題となるのは通常著作権だけです。著作権に関して米国法は、個別の権利制限規定に加え、フェアユースという一般的な規定を持っていますが、このフェアユースがパロディの問題、つまり著作権と表現の自由の関係を議論する格好の土俵になっているのです。
ここでは、著作権の及ぶ作品のパブリック・ドメインにおける利用の限界という観点から非常に興味深い素材であるパロディに関し、米国の教科書などで広く取り上げられている判決を集めてみるとともに、日本の判例もいくつか取り上げてみました。
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目 次
法令
判例・パロディ
判例・フェアユースの代表判例
判例・日本の判例
法令
パロディに関して日米の法制度が大きく異なるのは、米国では著作者人格権が限られたジャンルの著作物でしか保護されていないこと、そしてフェアユースという一般的な著作権の制限規定を持つことであろう。
17
U.S.C. § 107, Limitations on Exclusive Rights: Fair Use
パロディの議論の中心はやはり著作権であり、フェアユース規定である。米国著作権法の規定のうち、我が国でも最も広く知られる条文のひとつであろう。
15
U.S.C. § 1125, False designations of origin, false descriptions and
dilution forbidden
パロディのもうひとつの議論の舞台は、商標及び不正競争、特にいわゆるダイリューションの文脈で見出される。米国商標法(不正競争法)のダイリューション救済規定にはフェアユースのほかいくつかの制限規定が設けられている。
判例・パロディ
パロディの問題に関して、「日本人には欧米人のようなカラッとしたパロディのセンスがないから、パロディを広く容認すると暴力的ないし卑猥な作品または単なる模倣が溢れるだけになる」という議論もある。しかし、英語のジョークには陰湿なものも結構多く、日本人のセンスが欧米人に比べて特に劣るとも思われない。アメリカでパロディが問題にされている事例を見る限り、裁判所が差止請求等を斥けた事例においても、その表現内容は必ずしも上品なものではないし、垢抜けているとも限らない。むしろ、猥雑であるところにインパクトがあるともいえる。結局のところ両者の相違は、国民のセンスや作品の質でなく、風刺ないしより広く批判という行為に対する社会の寛容性に尽きるのではなかろうか。
Columbia
Pictures Corp. v. National Broadcasting Co., 137 F.Supp. 348 (S.D.
Cal. 1955)
Benny
v. Loew's Inc., 239 F.2d 532 (9th Cir. 1956), aff'd Columbia
Broadcasting Systems, Inc. v. Loew's Inc., 356 U.S. 43 (1958)
Dallas
Cowboys Cheerleaders, Inc. v. Pussycat Cinema, Ltd., 604 F.2d 200
(2nd Cir. 1979)
有名なチアリーダーのチームユニフォームを若干変えた服装を用いてアダルト映画を作製した事例において、商標法と連邦憲法修正1条(表現の自由等)との関係が問題となった。表現について十分な代替手段が存在する場合には商標法上の財産権が優先するとの判断がなされている。
Elsmere
Music, Inc. v. National Broadcasting Co., 482 F.Supp. 741 (S.D.N.Y.)
L.L.
Bean, Inc. v. Drake Publishers, Inc., 811 F.2d 26 (1987)
L.L. Bean
という有名な高級カタログ販売業者のカタログの猥褻パロディ記事"L.L.
Beam's Back-To-School-Sex-Catalog"の出版差止請求事件。問題の記事は商標の商業目的利用を含んでいないこと、及び、風刺行為自体が目的であって特定の商品の販売を意図したものでなかったこと等を考慮し、出版差止は違憲であるとした。
Campbell
v. Acuff-Rose Music, Inc., 510 U.S. 569 (1994)
パロディに関する最重要判例。フェアユースの適用に関する極めて詳細な議論の中で表現の自由と著作権との調和が図られている。映画の主題歌にもなった"Pretty
Woman"を黒人の目から風刺したラップナンバーが、明らかに商業利用目的であり、かつ作品のキモ(heart)がコピーされていたにもかかわらず正当なパロディであると認められた。
Hustler
Magazine, Inc. v. Moral Majority, Inc., 796 F.2d 1148 (9th Cir.
1996)
反論目的で作品を丸ごとコピーして作成したパロディにつきフェアユースを認めた事例。
Suntrust
Bank v. Houghton Mifflin Co., (11th Cir. 2001)
判例・フェアユースの代表判例
フェアユースに関する判例は数多いが、フェアユースの一般的な思考過程を知る上で参考になる最も代表的な判決をあげ、パロディの判決を理解する助けとしたい。
Sony
Corp. of America v. Universal City Studios, Inc.,
464 U.S. 417 (1984)
いわゆるベータマックス事件の判決で、フェアユースに関する最重要判例といえる。米国著作権法107条の適用過程が詳細に論じられており、フェアユースの適用が争われる事件では必ず引用される判決である。
Harper
& Row v. Nation Enterprises, 471 U.S. 539 (1985)
社会的関心の高い作品からその出版直前に無断引用をした事例について、フェアユースを否定した。
New
Era Publications International, ApS
v.
Carol Publishing Group, 904 F.2d 152 (2nd Cir. 1990)
宗教家の著作からの引用を用いて書かれたその宗教家の批判的伝記について、フェアユースが認められた事例。
判例・日本の判例
大陸法系の Author's
Right
アプローチを採用した日本は、著作者人格権を強く保護し、また、フェアユースのような一般的な権利制限規定を持たない。大陸法系の国でも、パロディに対するアプローチは様々であるというが、我が国の最高裁判所は著作権法を厳格に解釈し、パロディが合法とされる範囲につき制限的な理解を示した。
最高裁判所昭和55年3月28日第三小法廷判決・民集34巻3号44頁)
パロディに関する我が国のリーディングケース。合成写真を用いたパロディを正当な引用と認めた原審の判断を覆し、侵害を認めた。判旨は、同一性保持権侵害の一般的判断基準を定立して事実を当てはめた後、パロディについても特別な取扱いがなされることはない、とするごく形式的なものである。環裁判長の補足意見の中で、著作物が私権の目的としての性質と公共の財産としての性質を持つことを踏まえ、本判決は著作者に偏したものではないことが説明されている。
東京地方裁判所平成11年8月30日判決(平成10年(ワ)第15575号著作権侵害差止等請求事件)
いわゆるときめきメモリアル事件。恋愛ゲームソフトの登場人物を用いて作成したアダルトビデオについて、著作者人格権の侵害が認められた。
東京地方裁判所平成13年12月29日決定(平成13年(ヨ)第22103号著作権仮処分命令申立事件
)
世界的なヒット作「チーズはどこへ消えた?」の翻訳者及び出版社が、そのパロディである「バターはどこへ溶けた?」の販売等の差止めを求めた仮処分申立事件で、裁判所は、「バター」の表現はパロディとして許される限界を超えたものであるとして著作権侵害を認め、申立を認容した。
東京地方裁判所平成13年12月29日決定(平成13年(ヨ)第22090号不正競争仮処分命令申立事件)
不正競争防止法2条1項1号及び2項に基づく「バター」の差止請求仮処分事件。裁判所は「類似性」の要件を欠くとして仮処分の申立を却下した。なお、判旨は、書名が原著作物の翻訳である場合に、債権者が自己の商品等表示として差止請求をすることができるかということ自体についても疑問を投げかけている。

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最終更新日 :
2002/03/30
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